The Art
of Foundation
of Foundation

「江戸前仕立て」とは、仕立ての技法ではなく、ものづくりの思想です。
私たちは、ものづくりの89%、およそ九割は「仕込み」だと考えています。
組み立てる前に、仕事の大半は決まる。
それが、九十年以上にわたり受け継ぎ、現代に完成した〈OHBA〉の「江戸前仕立て」の思想です。
革は天然素材であり、一枚ごとに繊維の密度や張り、伸縮率が異なります。さらに裁断された瞬間から、それぞれのパーツは大きさや形状に応じて異なる動きを始めます。
異なる性質を持つ革同士をそのまま貼り合わせれば、時を経るにつれて反りや歪みが生じます。私たちは、革の性質を見極め、その動きを読みながら仕立てを進めます。
〈OHBA〉では組み立てる前の「仕込み」に最も多くの時間を費やします。
実寸よりも大きく裁断し、部位ごとに最適な厚みに漉き分ける。
革を休ませ、動きを見極め素材が落ち着くのを待つ。
完成した製品がどのように開き、どのように曲がり、どのように手に馴染んでいくのかを思い描きながら、革を揉み込み、その動きをあらかじめ整える。
再び寝かせ、素材が落ち着くのを待つ。
異なる革を貼り合わせた後も、すぐに組み立てることはありません。
それぞれの革が馴染むまでさらに再び寝かせ、と、その間に必要に応じて革で仕立てた芯材を忍ばせます。
そして最後に、革包丁や本型によって組み立てるための正確な寸法へと裁ち落とします。
幾度も時間を与え、幾度も手を入れる。
そうして幾層にも貼り合わせた革は、まるで最初から一枚の革であったかのような自然な表情を宿し、美しさと耐久性を兼ね備えた一つの素材へと生まれ変わります。
こうした手間暇は、例えば鮨屋でいうところの「仕事」、にも通じるところがあります。
お客様の前で握る時間こそわずかですが、その一貫のために、何人もの職人が何時間、何日とかけて素材を締め、煮る、漬ける、炊くなどの仕込みを繰り返します。舞台で見えるのは最後の一瞬。
しかし、その一瞬を支えるのは、表舞台に見えない手間暇の積み重ねです。
江戸前とは、本来、鮮度を保つ術のない時代に、素材の持つ力を最大限に引き出し、永く良い状態で味わえるよう工夫を凝らした知恵でもありました。
その思想は、私たちの革づくりにも通じています。
素材をそのまま使うのではなく、その個性を読み、手を加え、時間をかけることで、本来備わっている美しさと耐久性を最大限に引き出すことにより、それは永く使うに値するものとなる。
ただし、手を加えすぎれば素材本来の魅力は失われるため、必要以上には触れないことである。
しかし、必要な手間は一切惜しまない。
その絶妙なさじ加減こそ、私たちが考える「粋」の精神なのです。
「粋」という字は、「米」と「卆」から成ります。
「米」を八十八、「卆」を九十と見立てるなら、八十八では足りず、九十ではやり過ぎる。その間にある、八十九ほどの塩梅にこそ、美が宿る。
「粋」という曖昧でありながら洒脱な感覚。その絶妙な匙加減を、あえて数値に置き換え、代々受け継ぎ、伝え続けていく。
100%徹底したその完璧な仕込みがあるからこそ、完成品は決して作り込み過ぎることなく、自然で品格ある佇まいに、まさに静謐であり瀟洒な製品へと仕上がります。
職人が誰であっても、その根底に流れる味付けは変わらない。
それが九十余年にわたり暖簾を守り続けてきた、《OHBA》の「江戸前仕立て」です。
「江戸前」という言葉には諸説ありますが、「男前」「一人前」「腕前」のように、その人らしい様や仕事ぶり、流儀を表す「前」という解釈もあります。
受け継いでいるのは、江戸という土地が育んだ美意識と仕事の流儀。
見えないところにこそ手間を尽くし、仕込みを尽くし、最後は軽やかに仕立てる。
それが、〈OHBA〉の「江戸前仕立て」です。
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